(4)チョルバへの誘い《12月―チョルバの誘惑》 (2003年12月の記録) 第4話 チョルバへの誘い(いざない) トルコには他にもたくさんの種類のチョルバがある。 黄色いレンズ豆のチョルバ、赤レンズ豆にお米やミントを加えたエゾゲリン・チョルバス(花嫁のスープ)、ヨーグルトに米、ミントなどを加えたヤイラ・チョルバス(高原のスープ)、バルック・チョルバス(魚のスープ)、ケッレ・パチャ・チョルバス(羊の頭と足のスープ)、イシュケンベ・チョルバス(羊の胃袋のスープ)etc。 私はどちらかというと、お腹にたまる豆のチョルバや酸味のあるヨーグルトのチョルバより、鶏肉を使ったスープが好きだ。中にシェヒリエを入れたさらっとしたスープは、私が始めて作ったチョルバのひとつだが、中華スープのように淡白で飽きの来ない味である。 それに、私は頭や足、胃袋を使ったチョルバだって喜んで飲む。 頭のチョルバは郷里に住むもうひとりの義妹が、私たちのために作ってくれたのを飲んだのが最初。頭や足のチョルバはどのロカンタでも見つかるわけではないので、これを見つけたときは迷わずこれを選ぶ。 胃袋のチョルバはロカンタでも時々見かけるが、専門店があって、飲みたい時はそこへ行く。独特の臭みがあるのだが、にんにく酢をかけると、臭いが気にならなくなって美味しく食べられる。 チョルバの良いところは、朝でも昼でも深夜でも、時間に関係なく飲めるところ。 なにより、主婦にとっては有り難い存在だ。時間があるときに作っておけば、いつでも帰ってきた家族のお腹を満たしてあげることができる。 朝の眠りから覚めたばかりの重い身体にも、温かいチョルバはやさしく収まる。ちょっと小腹が空いた時も、パンと一緒にスープ皿一杯のチョルバをいただけば、満腹できる。 寒い冬の日には、熱々のチョルバが身体の中に春を運んでくれる。 あれから2ヶ月の間にも、繰り返しチョルバを作った。 我ながらよくできたと思う時も、今ひとつの時も当然あった。 我が家の定番チョルバも、メルジメッキとタヴックにおさまってきた。 ロカンタでメルジメッキのチョルバを飲んだ上の娘が、「アンネ(お母さん)のチョルバの方が美味しい」と言ってくれる時、「そうお?」と意外な顔をしながらも、思わず口元が緩んでしまう私だった。 そして今日も、タヴック・チョルバスを作る。 鍋には鶏一羽と水、塩が入れられ、すでに火に掛けてある。 色々な部位を試してみたが、丸鶏が最も旨みが出て、かつ澄んだスープになることがわかった。腿肉を細く割いてスープに入れた残りの部位はサラダなどに活用することができ、一石が二鳥にも三鳥にもなる。 そろそろアクが出てくる頃だ。 蓋を取った大鍋からは、もうもうと湯気が立ち上り、家中にほのかな香りが漂い始める。 チョルバの出来上がりを想像しながら、ささやかな充実感、小さな幸福感を感じるひとときである。 (おわり) |